ニセ札
午後の街角。道端で露天商をしている男に客が来た。

「いらっさい」

露天商は笑顔でお客に挨拶する。社交辞令。
お客はここの店の売っているものに興味を持ったようだ。

売られているものは写真たてのような、小さい額縁のようなものがひとつだけおいてある。
中には、えらそうな顔で描かれたおっさんの肖像があって、「壱万円札」と書かれている。

お客は問う。

「なんで一万円が売られてるんだぃ?」

「あぁ。これですか。これはとっても精度がいい偽札なんですよ」

「偽札?」

お客は顔をしかめた。

「売ったら捕まるんじゃないのかぃ?」

「使わなかったら大丈夫です。この偽札はあまりにも精度が良すぎて
予算的にオーバーになったんですよ。だからこーやって美術用に売ってあるんです」

「へぇ。それは面白いね。幾らだぃ?」

「1万五千円になります。何せ精度が高い分お金がかかっちゃうんで。 ほら。いくら作っても損だったら意味無いでしょ?」

「それも、そうだな」

露天商は笑ってみせると、お客も笑ってくれた。
お客は財布から壱万円札と千円札五枚渡して、額縁を受け取る。

「毎度〜」

お客はうれしそうにそこから去っていく。

露天商はさっき受け取った5千円を財布に入れて、壱万円札を額縁に
入れて、また売り出した。

露天商は言う。

「気がつかなければ、どれも偽札なんだよ」


機内食
成田発ニューヨーク行きの国際線のジャンボジェット機の中。
ファーストクラスに座った初老の男性に客室乗務員の女性が話し掛けた。

「お客様。お食事のほうはどう致しましょう?」
「食事?」

そういえば、日本時間ではもう夜の七時になる。丁度夕食時だ。
しかし、この男性は飛行機に乗るのが初めてで、選べる事なんて知らなかった。

男性は、乗務員に問うた。

「食事は、選べるのかい?」
「えぇ、選べますよ」

乗務員はニッコリと営業スマイルを輝かせた。
それを聞くと、男性は少しワクワクしながら聞いてみる。

「それで、何が選べるんだい?」


「"食べる"か"食べない"かで御座います」


取調べ
ある夜更けのころ、警察署の取調室がとても騒がしかった。
どうやら先程捕まった殺人犯の男を刑事が取り調べているらしい。
なんども机を拳でたたく音がして、怒鳴り声と共に吐かれる罵詈雑言が署内に響いていた。

「貴様!なんでヤツを殺した!?」

取調べをしていた刑事がまたも机を叩いて、
べたなサスペンスドラマのような台詞を緊迫した表情で怒鳴る。

「手で」

しかし、犯人は無表情に刑事の顔を眺めている。
そんな犯人の態度に刑事は熱くなったのと、
根本的に話が噛み合わないのに苛立ちを感じまたも前のめりになって机を叩く。

「だから、どうして!?」

「こうして」

犯人は突き出された刑事の首に手をかけると、両手で締めた。


道路交通法違反
一台の乗用車が国道でパトロール中の白バイ警官に止められた。
路肩に駐車させると運転席に座っていた男が窓を開けて警官と話した。

「スピードの出し過ぎですね。時速100キロは出てましたよ」
「100キロ? そんなバカな。私は80キロくらいしか出してませんよ」

何を根拠にとでも言いたそうに、軽く笑顔を浮かべて答える。
すると男の妻が助手席から口を挟んだ。

「あなた、絶対に100キロ出てたわよ」

男が舌打ちして妻を見ると、警官は言葉を続けた。

「あと、テールランプが切れてますね。これも違反です」
「テールランプ? きっと走ってる間に切れたんでしょう。
ぜんぜん知らなかった」

これも右から左へ受け流すように、微笑しながら答える。
すると男の妻がまたもや助手席から口を挟んだ。

「あなた、テールランプが切れてるから交換してって、
もう1ヵ月も前からあたしが頼んでいたでしょう?」

男が忌々しく妻を見ていると、警官はさらに言葉を続ける。

「それと、シートベルトをしていませんね?」
「シートベルトは、車を停めたときに外したんですよ」

冷や汗をたらしながら、さも余裕があるように回答する。
すると男の妻がまたまた口を挟んだ。

「あなた、シートベルトなんてしたことないじゃない」

男は我慢の限界を超えて妻に大声で怒鳴る。

「おい!お前はさっきから余計なことばかりべらべら喋りやがって!
いい加減にしないと車からたたき落とすぞ! 」

あまりの剣幕に警官は面くらい、妻に聞いた。

「ご主人はいつもこんな乱暴な言葉遣いをするのですか?」

すると妻は困惑した顔で答えた。
すかさず、首をふるふると横に振って。

「とんでもない! 普段は優しい夫です。
こんな暴言を吐くのは飲み過ぎたときだけです!」


兄妹ゲンカと父
とある日本のどこにでもいるような普遍的な家族がいた。
絵に描いたような4人家族と思ってもらったらいい。

ある日、その家族の二人の子供が部屋でけんかをしているようだった。
どったんばったん、地団太でも踏んでいるのか物音が絶えず
少しヒートアップしすぎな声が家中に響き渡っている。
あまりにもうるさいので父親は、子供を注意しに部屋へ向かう。

「コラコラ、うるさいぞ? ご近所に迷惑だろう。どうしたんだ?」

子供たちは一旦言い合いを止めて、父親のほうを見る。
兄はへの字に口を曲げて、事情を説明した。

「どっちがお父さんを愛してるかって、もめてたんだ」
「おまえたち……」

思わず、目頭が熱くなる父。いいだろう、このまま言い合わせておこう。
何かに期待したのか、父親は適当な返事だけすませて部屋を後にする。

部屋を後にした直後、部屋がまたにぎやかになった。
今度はよりいっそう、大きな声で叫びあっている。

ふと、父親はその叫び声に耳をすました。




「お前のほうだよ!」
「お兄ちゃんのほうだよ!」